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森孫右衛門、漁師から魚商人へ

中沢新一先生です。

「森一族は、徳川家康の「白魚御用係」となり、江戸城に魚を納めるような立場を手にいれれば、権威のバックボーンができて、さぞや商売の勢いも増していっただろうと思われるかもしれないが、これが曲者であった。お城から、何月何日にこれこれのお祝いがあるから、新鮮な鯛を何百枚、ボラ何百匹、スズキ何百匹を、まちがいなく期日に調達しなければならない。

江戸湾でそうそう鯛はとれないから、伊豆や房総の契約漁村に早馬を送って、臨戦態勢に入る。鯛を釣り上げることができても、今度はそれを特急で(船と飛脚が使われた)江戸に搬送しなければならない。運んでくる最中に悪くなってしまう鯛の数を、計算に入れて、いつも多めに送り出す。他の業種の御用商人とくらべて、生魚納入の商人たちは、いつも戦場におけるような緊張感をもって、御用にあずからなくてはならなかった。

しかしそんな努力にもかかわらず、お城から下される報酬はわずかである。どんな高級魚を納入しても、町中で売られるのよりも、はるかに安い値段で買い取られるのを、我慢しなければならなかった。いきおい漁民たちは、市中に開設する魚河岸での商売に、期待をかけることになる。」

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  • Author:tsukiji-okami