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漁民と刺青

中沢新一先生です。

「鳶職人や火消しや漁師や交通運輸の人々の出自は、多くが川の民、海の民であると言われる。船底の板一枚隔てて荒波に接し、潜水漁師は自分の皮膚をさらして、直に海水に洗われ揉まれている。この人々にとって、自分の皮膚は文化の世界のものではなく、むしろ自然の一部なのである。

そうなると、そういう自然的皮膚をキャンバスに見立てて、自然力を美しく昇華した「消えない絵画」を、そこに彫り込もうという考えが、海民文化の中に生まれるのは、ごくナチュラルな流れである。なにせ自分の背中に、自然よりも強力な自然を背負っているようなものだから、波や水流や風と一体になれて、なんの違和感もなく、水や火の中で安全に作業を進めることができる。

こういう心性が、海民に特有の文化をつくった。火や水の力を恐れず、身を挺して火事の現場に飛び込んでいく、火消しの気風の良さを、江戸の庶民は大いに賞賛した。刺青の美が、その心意気を象徴している。そういう海民的な心意気や思考法が、江戸っ子の心性の土台を形ずくっていた。その海民文化の発源地のひとつが、江戸湾に浮かぶ佃島であり、その佃島漁民によって、日本橋魚河岸は開かれた。このことは、魚河岸文化の本質を考えるうえで、きわめて重大な事実をなしている。」

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  • Author:tsukiji-okami