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「築地市場の豊洲移転は、築地市場仲卸業者の方たちの持つ「営業権」を侵害します。財産権の侵害にあたっては、その権利者からの同意を得、かつ権利者の受ける損失を補償しなければなりません。しかし、東京都は、仲卸業者の方たちに「営業権」や「財産権の侵害」の話を一切していません。それどころか、仲卸業者の方たちとの話合いを拒み、東卸との交渉だけで移転を進めています。これは明らかに財産権の侵害に当たり、財産権を保障した憲法29条に違反する行為です。」と豊洲移転の問題点を鋭く指摘する明治学院大学の熊本一規教授のHPから、許可をいただき転載させていただきます。

熊本教授のHPはこちら↓
http://www.geocities.jp/kumamoto84/
築地営業権問題のHPはこちら↓
http://www.geocities.jp/kumamoto84/Tsukiji/Tsukiji.html​



〇築地市場移転問題(東京都)

 東京都が築地市場を閉鎖し、豊洲に移転させようとしている問題です
 築地市場の仲卸業者の方たちは、その多くが移転に反対の意向であると聞きますが、なぜ移転することになっているのでしょうか。
 築地市場の豊洲移転に関しては、1998年12月に東京魚市場卸協同組合(略称「東卸」)の臨時総代会において「現在地(築地)再整備」が可決されたものの、2014年11月14日の東卸総代会において当時の伊藤淳一理事長が、1998年12月の臨時総代会の決議について「私のほうから白紙の宣言をさせていただく」と宣言し、それが拍手で承認されたことが豊洲移転の法的根拠とされています(詳しくは週刊金曜日2018年1月26日号掲載の永尾俊彦氏の論文を参照)。
   週刊金曜日(2018.1.26)

 しかし、事業を営んでいるのは仲卸業者の方たちであるのに、なぜ東卸が移転を決められるのでしょうか。
 これは、漁業を営んでいるのは組合員であるのに漁協が埋立やダム建設に同意している問題(上関原発の事例を参照)と全く同じで、組合の決議がゴマカシに利用されているのです。40年余り埋立と漁業権について研究してきた私には、そのゴマカシがピンとくるのです。永尾俊彦氏も、川辺川ダムや諌早湾や大入島埋立等で私と漁民との勉強会に参加され、また拙著を読んでくださっているので、ゴマカシに気づかれ、私にコメントを求めてこられたのでした。

 週刊金曜日の記事を見た共産党都議団の方たちが、私に連絡をとってこられ、2月13日に勉強会を持ちました。都議会で質問してくださることになり、その後、質問結果の連絡が来るのを心待ちしていましたが、なかなか来ないので連絡を取ったところ、質問前に都に説明を求めたところ「仲卸業者は借地権を持たない。都営住宅の入居者と同じようなもの」との説明を受けたために質問をあきらめたとのことでした。
 しかし、仮に仲卸業者が借地権を持たないとしても、「東卸が何らかの権利を持っていて、総代会決議で移転を決められる」はずはありません。権利を持っているのは、事業を営んでいる仲卸業者に違いありません。また、東卸の総代会決議を根拠にして誤魔化しているということは、仲卸業者が何らかの権利を持っているからに違いありません。

 そのような視点から、仲卸業者の持つ権利を検討して、「営業権」という概念に行きあたりました。「営業権」とは、行政庁の許可を受けて営業していたり、長年の営業により暖簾を得て営業していたりする事業者の持つ財産権です。築地の仲卸業者は、都知事の許可を受けていますから、それだけで「営業権」を持つことになります。そのうえ、「築地市場」は、いまや世界的に有名なブランド(暖簾)ですから、その点に基づいても「営業権」を持っていることになります。

 とすれば、築地市場の豊洲移転は、築地市場仲卸業者の方たちの持つ「営業権」を侵害します。財産権の侵害にあたっては、その権利者からの同意を得、かつ権利者の受ける損失を補償しなければなりません。
 しかし、東京都は、仲卸業者の方たちに「営業権」や「財産権の侵害」の話を一切していません。それどころか、仲卸業者の方たちとの話合いを拒み、東卸との交渉だけで移転を進めています。これは明らかに財産権の侵害に当たり、財産権を保障した憲法29条に違反する行為です。

 5月29日に築地厚生会館で開かれた仲卸業者の方たちの勉強会でのレジュメと資料を次に掲載します。仲卸業者の方たち各自が営業権を持っていること、及び都と東卸がそれを誤魔化して営業権を侵害してきたことが分かると思います。
 5月29日勉強会レジュメ(2018.1.26)
 5月29日勉強会資料
 ルポライターの永尾俊彦氏が5月29日勉強会の概要を週刊金曜日(2018.6.8)に掲載してくださいました。
 週刊金曜日(2018.6.8)
・築地仲卸業者の取組みについては、次のホームページを参照してください。
  築地女将さん会のホームページ
・築地女将さん会のホームページお知らせ欄(6月6日)にとても光栄な勉強会の感想を掲載してくださいました。感謝の気持ちを込めつつ紹介します。
 小よく大を制す、熊本一規先生
・仲卸業者の方々の取組みは迅速かつ素晴らしいです。早速、規約を作り築地市場営業権組合を結成されました。6月21日15時より都庁記者クラブで記者会見です。
・6月21日15時より都庁記者クラブで営業権組合の記者会見が開かれました。自分の権利に基づいて闘えることがわかった仲卸業者の方たちが熱心に発言されたことが印象的でした。質問の数も従来の記者会見よりも2,3倍多かったとのことです。当日の配布資料(規約・公開質問状等)を次に掲げます。公開質問状は7月6日までの回答を要求しています。
 6月21日記者会見配布資料
 記者会見の模様は、次のサイトで見ることができます。
YouTube:築地仲卸業者の営業権新組合発足
・6月27日、市民報道クミチャンネルに営業権のことやこれまでの私の取組みに関する動画を撮っていただきました。次のサイトに掲載されています。
YouTube:築地仲卸業者の営業権について
・営業権組合結成企画第一弾として7月7日(土)と7月10日(火)に連続学習会が企画されました。その案内チラシと会場地図を掲載します。
 チラシ表
 チラシ裏
 会場地図
・7月21日(土)に学習会が企画されました、12:30から、場所は講堂(上記会場地図参照)です。
・7月21日学習会では、営業権の侵害に伴う補償について具体的な質問が出て、詳しい説明を行ないました。
 席上、村木営業権組合共同代表から、「組合員が100名を突破した」との報告がなされました。また、営業権組合は、仲卸業者など営業権を持つ人たちを核とするとともに、『公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱』に基づいて交渉がなされるよう求めていくことも確認されました。今後、組合員加入が加速することが期待されます。
 当日のチラシを下に掲げます。疑問に答える形でわかりやすく、かつ法的にも正確に書かれた大変優れたチラシです(チラシ裏にご注目!)。
 第3回学習会チラシ表
 第3回学習会チラシ裏

・公共事業に伴う損失補償基準としては、通常「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年閣議決定)が適用されるのですが、築地市場の豊洲移転は既に公共用地として利用されている土地における事業のため、別の「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」(昭和42年閣議決定)のほうが適用になります。
 国(国交省)は、公共事業を実施する都道府県等に対して、両要綱に基づく「基準」をそれぞれ策定するように指導しています。
 ところが、前者の要綱に基づく基準は、たいていの都道府県で既に定められていますが、後者の要綱に基づく基準は、あまり定められていません。実際、埼玉県は平成21年にようやく定めましたが、東京都は要綱制定から半世紀以上を経た今でも定めていません。
 そこで、まず国交省公共用地室に「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」の解釈について、問合せをし、議論しました。その結果、豊洲移転に関する条項について私見への同意を得ることができました(8月8日)。
 次いで、東京都の公共補償についての法解釈担当部局(資産運用部管理課)に問合せたところ、やはり私見に全く同意してくれました(8月10日)。ちなみに、公共補償基準が未制定なので、公共用地における公共事業では、「公共用地の取得に伴う損失補償基準(都では「東京都の公共事業の施行に伴う損失補償基準」と名付けています)」と「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」の二つを参考にするとのことでした。
 これで、国及び都の法解釈担当者は、私見、すなわち「営業権の侵害について補償することなく豊洲移転を強行すれば憲法29条違反になること」に同意してくれたことになります。
 豊洲移転を進めているのは、東京都中央卸売市場事業部ですが、国や都の法的見解を無視して、今後も事業を強行するのでしょうか?法治国家では許されないことです。8月18日、営業権組合の第1回臨時総会が開かれました。「公共事業の施行に伴う損失補償」に関する法解釈について、国(国交省公共用地室)も東京都(財産運用部管理課)も私見に同意したこと、いいかえれば、築地市場の豊洲移転が、営業権を無視して違法(憲法29条違反)に進められていることを説明しました。
・8月21日、東京都中央卸売市場事業部に豊洲移転に伴う損失補償について問い合わせました。驚いたことに、豊洲移転を担当している部署でありながら、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」のことを全くご存知ありませんでした。東京都が同要綱に基づく基準を定めていないためでしょう。
 そこで、次の①~④を教えました。
①都では「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に基づく「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」は制定しているが、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」に基づく基準は制定していないこと
②都では公共事業に伴う損失補償については資産運用部管理課が所管していること
③財産運用部では、第一に「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」に基づき、それで足りないところは「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」に基づいて損失補償するとしていること
④資産運用部の法解釈は私見と全く一致していること、また国交省公共用地室も私見と一致していること

 それに対し、事業部は「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」を知らなかったので、それを勉強してから回答します、ということでした。
 勉強すればするほど、都資産運用部や国交省公共用地室と同様、私見と一致するはずですし、都が豊洲移転に関し、憲法29条違反を犯していることにも気づくはずです。
・9月5日、都庁で記者会見を行ない、そこでこれまでの東京都との法律論争を報告しました。報告の際、配布したレジュメ・資料を下に紹介しますが、概要は次の通りです。
1.営業権の侵害について
・都(中央卸売市場事業課)は、まず次のように答えました。
①豊洲移転に伴う経済的損失はすべて受忍限度内である。
②受忍限度内か否かは、損失額及び事業の性質(公共事業として行なうという性質)により判断する。
ちなみに、受忍限度とは、騒音、振動、悪臭等の被害について、社会生活上、被害者が受忍(我慢)しなければならない限度という意味です。
騒音、振動、悪臭等の被害が主張された場合に、被害が生じていればすべて違法性を認めるのでなく、諸事情を考慮して、被害が社会生活上受忍すべき限度を超えていると評価される場合に初めて違法性を認める法理を受忍限度論と呼びます。
・これに対し、②受忍限度の判断に「事業の性質は関係ない」と反論し、国(公共用地室)の同意も得られたので、それを伝えると、「都の関係部局が集まって決めたのだから、すべて受忍限度内だ」とのビックリするような回答が返ってきました。
 加害者が一方的に受忍限度を決められるのなら、どんな加害行為も許されることになってしまいます。暴行だってセクハラだって「受忍限度内だ」と決めれば、いくらでもできることになってしまいます。そのような、常識人なら誰もができる判断さえ都はできないのかと驚きました。これは、乱暴であるだけでなく、明らかに憲法29条(財産権は、これを侵してはならない)に反した回答です。また、騒音等はゼロにするのが不可能ですから「受忍限度論」を適用できるとしても、憲法29条で「財産権は、これを侵してはならない」とされている「財産権侵害」に騒音等と同じように「受忍限度論」を適用するのは、そもそも間違いだと思います。
・しかし、そんな乱暴かつ違法な発言をせざるを得ないほど都が追い詰められたと見ることもできます。
2.築地移転に公共補償基準が適用されるか
・これは、補償の要否に関わる問題ではなく、補償する場合の基準の問題です。
 私は、築地移転事業に公共補償基準が適用になると思いますが、都は適用にならないとしています。詳しくは、両者の見解を比較した別表をご覧下さい。
 公共用地補償基準の解説』から抜粋した引用文を読まれると私の見解が正しいことがおわかりになるはずです。
 都の間違いは、公共事業を「用地取得を伴う事業」に限定していることに起因しています。公共補償基準は、公共事業を「土地収用法3条に列記されている事業」と定義しており、土地収用法3条は、「土地を収用し、又は使用することができる事業」として35の事業を列記しています(中央卸売市場に関連する事業は28号に含まれています)が、あくまで「土地収用等ができる事業」であって、「用地取得を伴う」ことは要件とはされていません。
・また、仮に築地移転事業に公共補償基準が適用にならないとしても、事業主体が都でないような公共事業であれば疑いの余地なく公共補償基準が適用されますが、事業主体が国であろうと都であろうと営業権者の受ける損失には変わりないのですから、少なくとも公共補償基準を準用すべき、と主張していますが、都は「所管外である」と言って逃げています。
3.認可と事業との関係
 これは都(中央卸売市場事業課)も知らなかったので教えてあげたことですが、農水省の認可がなされたとしても、それで事業を実施できることにはなりません。
 認可は、事業者と公との関係(公法関係)にすぎません。東京都は、事業者と公との関係において認可を得るのみならず、事業者と民との関係(私法関係)において権利者の同意を得なければ事業を実施できません。
 例としては、埋立の手続きが好例です。公有水面埋立法では「埋立免許を取得しても水面権者に補償しなければ着工できない」とされています。つまり、事業者と公の関係が埋立免許を得ることでクリアできても、事業者と民との関係をクリアしなければ(権利者の同意を得なければ)事業を実施できないのです。
 この点を全く知らなかったことが、これまで築地事業者の営業権を都が一貫して無視してきたことの一因かもしれません。
〇農水省の法的責任と社会的責任
・農水省は、卸売市場法の認可要件を満たせば法的には認可できますが、他の法律(憲法、建築基準法等)に照らして、あるいは私法関係において明らかに違法な事業を認可すると後で社会的責任を問われることになります。埋立の手続きで、法律上は補償の前に出されることになっている埋立免許が実際には補償後に出されるのが常であることも埋立免許を出す行政庁が免許後に責任を問われることを回避しようとするからです。
・築地移転に関して、事業者(都)が「すべて受忍限度内だから損失補償は必要ないと都が決めたんだ」との乱暴かつ憲法違反の見解に基づいて事業を進めていることを農水省がどれだけ重く受け止めるか、注視していきましょう。
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